20.百里ヶ岳積雪期新ルート開拓

(2010.1.23~24)

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 桜谷山への広いブナ林の尾根
 
 桜谷山山頂
 
桜谷山手前よりの百里ヶ岳遠望 
 
桜谷山頂上 
 
百里ヶ岳山頂へ 
 
百里ヶ岳頂上 
 
木地山峠 

 山頂に立てば百里四方が見渡せると言うことから名付けられた百里ヶ岳は、小浜の南東の福井県と滋賀県の県境に聳える堂々とした風格のある標高931.3mの一等三角点の山である。
 私が大学生であった50年前は、百里ヶ岳山頂付近は、熊笹のおい繁った薮山であった。当時薮漕ぎを「ジャンジャン」と言ったが、しんどいジャンジャンを強いられる代表的な山が百里ヶ岳であった。
 その後、鹿の異常繁殖や、登山者の急増で熊笹の薮は殆ど消えてしまい、又地元小浜山の会の熱心な登山道整備のお陰で、百里ヶ岳は非常に歩きやすい山になった。
 そして近年、百里ヶ岳の山頂付近は伐採されて、日本海まで見渡せる展望の良い山頂となり、近畿の山では人気のある山の一つとなった。

 しかし積雪期、特に1月〜2月の厳冬期の百里ヶ岳は、積雪も深く且つ日本海からの強風をまともに受ける悪天の日が多い厳しい山となり、登山者は極めて少ない。
積雪期の百里ヶ岳登山は、滋賀県側の二つのルートが利用されてきた。
麻生川沿いの木地山から川沿いの夏道をたどり、東谷出合い付近より、百里ヶ岳東尾根から山頂へ往復するルート。
このルートは山スキーにも適しており、私も厳冬期に2度東尾根から百里ヶ岳に登っている。もう一つのルートは、百里ヶ岳南尾根を小入谷峠から登る百里新道のルートである。距離が長いので、京都市内からの日帰り登山は難しく、私も前日に小入谷峠に幕営して百里ヶ岳へ往復したことがある。
 麻生川の上流から木地山峠へ至る夏道は、谷筋の雪崩の危険性があり、且つ急傾斜の痩せ尾根が滑落の恐れも強く危険なので、殆ど利用されていない。
2009年2月に東尾根から百里ヶ岳に登ったグループは、東尾根を戻らずに木地山峠から下山しようと試みたらしいが、その日のうちに下山出来ず、日没になって谷の中でビバークしている。幸いと人身事故にならなかったが、遭難事故寸前の登山であったようだ。

 福井県側からの夏道は、上根来から谷沿いに木地山峠経由で百里ヶ岳に登るルートが
最も多く利用されているが、積雪期は谷筋の雪崩れおよび尾根筋のトラバースの滑落危険が大きいため、積雪期には全く利用されていない。もう一つの夏道は、上根来の奥の畜産団地跡から尾根にとりつきP708, P871経由根来坂峠に至り、百里新道とのジャンクションから南尾根を百里ヶ岳に登るルートである。しかし、歩行距離が長いので、積雪期の登山としては、まったく利用されていないと言う。以前から情報交換させて戴いている小浜山の会に問い合わせたが、福井県側からは殆ど百里ヶ岳には登っていないとのことであった。

 2009年2月に私たちは、生杉の奥の地蔵峠から、北につづく若江国境尾根南部を若狭駒ヶ岳まで縦走したが、その際に百里ヶ岳にも登頂した。
百里ヶ岳の北尾根をたどって木地山峠の北に位置する桜谷山(825m)に登ると、山毛欅林の広い気持ちよい尾根となる。桜谷山から西北に延びる尾根又は南西に屈曲して上根来におりている尾根を観察して、上根来からの福井県側からの積雪期新ルートの開発が出来ないかとの発想にいたった。
若江国境尾根南部の縦走を終えてから、早速小浜山の会の木本茂さんに御相談したところ、それは面白いアイデイアだと御賛同を戴き、具体的に検討することになった。
5月に拙宅で打合会を行い、その後11月に上根来から桜谷山(825m)へのルートを偵察する合同山行をおこなった。
上根来からP589経由で北へ屈曲する尾根から桜谷山西北尾根に出て桜谷山に登り、下山は桜谷山西北尾根からP547経由上根来に下山した。
この偵察の結果、積雪期は上根来の神社裏からP547経由桜谷山に登り、桜谷山頂上の素晴らしい山毛欅林の中に幕営して、翌日百里ヶ岳を登頂して同じ桜谷山西北尾根を上根来に下山するルートが最も安全で楽しい雪山登山が出来るだろうと判断した。

 小浜山の会と相談の上、1月23日〜24日の週末に実施することになった。
京都の私たちのメンバーは、堀内潭さん(AACK), 永田龍さん(AACK)、佐藤典子さん(京都山岳会)とリーダー私(AACK)の合計4名。
しかし、残念ながら直前になって小浜山の会の方々の都合が悪くなり、木本さんだけが1月23日に桜谷山まで同行されることになった。


百里ヶ岳地図


1月23日(土):曇り。

   7:00/出町柳 - 9:00/若狭彦神社 - 9:30ー10:00/上根来(駐車)- 10:50/ P547 -  13:00/桜谷山(825m)。幕営

 堀内さん、佐藤さん、阪本の3名は午前7時に出町柳に集合して阪本車で小浜に向けて出発した。途中から花折峠までは積雪もまったくなかったが、花折峠を越えてから濡れた路面が少し凍結していた為か、2台の車が事故をおこしていて救急車と警察の車がきていた。朽木から熊川を経て、9時に若狭彦神社の近くの駐車場で永田車と合流。阪本の車に乗り換えてもらって上根来に向かった。上根来の村落にも1月中旬にはかなりの雪が降ったそうだが、1月21日の激しい雨で村落近辺の雪は殆ど融けてしまっていた。9時半に上根来の共同墓地前で小浜山の会の木本茂さんと合流。墓地前の空き地に駐車して、10時に出発。
 お寺の左手の民家の奥から尾根にとりついた。積雪はほとんどなし。急傾斜の尾根につけられた林業の作業道を登って行くと古びた共同アンテナが放置されていて、このあたりから残雪が現れた。1時間たらず急な傾斜の尾根をP547まで登ると積雪は50cmぐらいになるが、先日の雨で雪はしまっておりズッポで歩けた。P547を越えてしばらく登ると北からくる尾根とのジャンクション・ピークにいたる。このあたりから、尾根は山毛欅とみず楢の気持ちよい広い尾根となる。傾斜も緩くなり、広いゆったりした尾根を散策気分で楽しく歩く。P589から来る屈曲した尾根が桜谷山西北尾根に合流する地点あたりに登ってくると、木の間越しに百里ヶ岳のどっしりとした山容が見られる。そこから15〜6分で桜谷山頂上に着いた。日帰りの木本さんと記念写真を撮り、彼は下山。
 桜谷山の広い頂上にテントを設営後、永田さんと私が木地山峠への降りるルートを偵察。夏道の標識が立てられているところから、急傾斜の尾根を左手に巻き気味にトラバースして、百里ヶ岳北尾根の稜線に出る。強風で雪がクラストして凍結しているので、アイゼンをつけてロープを使ってルートを偵察した。快適なテント場に戻り、2時半頃から、翌日の飲み水を作りながら、焼酎、ウイスキーで雪見酒。夕食の終わる6時半頃には、4人ともアルコールですっかりご機嫌になり、7時頃に早々と就寝した。夜中に、時々強風で木々がゴーゴーと音を立てていたが、われわれのテント場はまったく強風の影響を受けず安眠出来た。 


1月24日(日):晴れ。

    7:00/桜谷山テント地 - 7:40/木地山峠 - 9:30/百里ヶ岳(931.3m) - 10:50/木地山峠 - 11:40/桜谷山テント地 - 14:00/上根来。

 テルモスに暖かい紅茶をつめ、棒ラーメンの朝食をすませてテント地を7時に出発。晴れてきそうな空模様だが、気温はかなり低く雪はしまりカチカチに凍結していた。佐藤さん、永田さんは12本爪アイゼン、堀内さん、阪本は6本爪で出発。雪が腐ってきた時のためにワカンも持参することにした。夏道の標識が立っている箇所から約20m下の立木より、8mm x 40mのロープを使用して百里ヶ岳北尾根へ下降する事にした。永田さんがビレーして、阪本が左手にトラバースしながらロープいっぱいの距離を下降してフィックス。堀内さん、佐藤さんはフィックス・ロープを使用して下降。永田さんが阪本を通り越し、更に約30m下降しフィックス。若い人なればロープなしでも滑落の恐れはないのだろうが、私のような70歳近いバランスの悪い老人メンバーがいる場合は、つまらない事故を避けるために慎重な安全策をとることが大切だ。 アイゼンのツアッケが気持ちよく効いて実に歩きやすい最高の条件。あっという間に木地山峠に着いた。峠の石のお地蔵さんに手を合わせる。壊れかけた木の祠に入っておられるお地蔵さんが、何か寂しげで気の毒のような気がした。
 木地山峠から百里ヶ岳は、約300m足らずの登りだが尾根筋も割りと広く歩きやすい。雪は堅くしまり殆どもぐらず、私の6本爪で快調に歩ける。傾斜が少しきつくなってくると、キック・ステップで登る。降雪直後の深雪の時は、恐らく膝までもぐるワカンのラッセルになるだろうと想像しながら、今日の最高の積雪条件に感謝。太陽が姿をあらわし、木の間越しに百里ヶ岳頂上付近の木々が樹氷にキラキラと輝いて見える。 
 百里ヶ岳頂上付近が伐採されたので、頂上手前は気持ち良い純白の雪面になっていた。佐藤さんにトップを譲り、美人の登山家をモデルに百里ヶ岳山頂の写真を撮る。予想以上の好条件に恵まれ、桜谷山から僅か2時間半で百里ヶ岳に登頂出来た。小浜山の会の方々が設置された立派な頂上看板の前で記念撮影。頂上からの景色は最高であった。日本海から、三十三間山、湖北武奈ヶ嶽、三重岳、そして南東に比良連峰が望まれる。小休止の後、登ってきたルートを下山。未だ雪は腐っておらず、アイゼンのまま快適に歩き桜谷山のテント地に11時40分に帰り着いた。桜谷山への最後の傾斜のきつい箇所は、登りなので早朝にロープを使った所もロープなしで登った。
 テントを撤収し、腹ごしらえをして下山開始。雪が腐り始め、アイゼンに雪の団子が着くようになった。頭の良い佐藤さん、永田さんはそれを予想してテント地からズッポで快調に歩いていたが、アイゼンを履いたままの私は途中で辛抱仕切れずアイゼンをはずした。気持ちより広い山毛欅林の尾根をルンルン気分で歩き、あっという間にジャンクション・ピークも過ぎてP547へ。古いアンテナのあるあたりから雪がなくなり、落ち葉の急坂となるが、非常に滑りやすく今回の山行で最も神経の使うところであった。静かな上根来の共同墓地に帰り着いたのは、14時であった。予想外の好天と最高の積雪条件のお陰で、非常にスムースな百里ヶ岳登山ができて大満足。新雪後のラッセルの深い時だったら、暗くなりかける17時前後にしか下山出来なかったであろう。
 上根来の殆どの家は雨戸も閉め切って、深閑とした空き家になっていた。若い人たちが村から立ち去って、現在の上根来には3〜4人の老人しか住んでおられない由。お盆や法事の時に、お墓参りに訪れるだけの村になってしまったとの事。上根来も、京都北山の大見村や尾越村と同じような状況になっているようだ。

 今回は、残念ながら小浜山の会の方々の御都合が悪くなり御一緒に百里ヶ岳に登ることが出来なかったが、上根来から桜谷山経由の百里ヶ岳へのこの積雪期の新ルートは、最高に素晴らしいお奨めコースになると確信した。桜谷山の稜線から百里ヶ岳北尾根へ降りるトラバースの急傾斜の箇所の通過にロープを使用して慎重に降りれば、後はまったく危険な箇所のない快適なルートである。ただ、上根来からの距離もかなりあり、新雪後には深いラッセルで時間がかかると予想されるので、桜谷山をベースとする1泊2日の雪山登山とする必要があろう。
 今回は残念ながら御一緒に百里ヶ岳に登れなかったが、小浜山の会の方々の御協力に心より感謝申し上げたい。