登山と健康 … 莫大なエネルギーを満干する登山


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 健康のために運動をするとき、その目安として、1日のうちに心拍数が120拍を超える時間を30分程度は設けようといわれることがある。
 図1−2は、筆者が日常生活をしたときと山へ行ったときの、ある1日の心拍数の変動を比べたものである。心拍数というのは、心臓が1分間に何回鼓動したかを表すもので、運動の強さやエネルギー消費量などが推定できる。
 日常生活の場合、心拍数が120拍を超えた時間は、ジョギングをした時に47分、それ以外の時間帯で14分、計61分だった。ジョギングをしなかったとすれば、30分以上運動するという基準を満たさないことになる。一方登山をした日には、実に523分(8・7時間)にわたって120拍を超えていた。
また別の目安として、運動によって1日に200〜300kcal程度のエネルギーを消費しようといわれることもある。
 表1−1は、筆者が行ったさまざまな登山のエネルギー消費量を示したものである。上の4つは本格的な登山をした時のものである。総エネルギー消費量は、歩行時間によって変わってくるが、5000〜7000kcalにも達している。
 下の2つは家族連れでハイキングをした時のものである。こちらは子供のペースに合わせてゆっくり歩いているが、それでもトータルで1500kcalあまりのエネルギーを消費している。
 このように、登山で消費されるエネルギーは莫大である。マラソンで使うエネルギーが2000〜2500kcalであるといえば、登山がいかに多量のエネルギーを使うかがわかるだろう。
 1時間当たりで比べてみると、登山で使うエネルギーはマラソンよりもずっと少ない。だが登山の場合、運動時間が非常に長い(本格的な登山ならば、マラソンの3〜4倍はある)。だから、マラソンで使うエネルギーを簡単に超えてしまうのである。

図1−2  筆者が日常生活(a)と登山(b)を行ったある1日の心拍数の比較。
       bは残雪期の谷川連峰(土合〜白毛門〜蓬峠〜谷川岳)を幕営縦走した時の
       1日目のデータ(山本1994)